- 「曲の中で聴こえる『カツッ』という、あのタイトで心地よい音はどうやって出すの?」
- 「静かな曲の時、もっと雰囲気を出す方法はないかな?」
ドラムを始めたばかりの頃、こうした疑問を持つことはありませんか? ドラムは基本的に音量の大きな楽器なので、静かな雰囲気を出す方法に悩むのも無理はありません。
その悩みを解決してくれる奏法こそが、「クローズドリムショット」です。この記事では、あなたの演奏の表現力を劇的に広げる「クローズドリムショット」について、現役ドラム講師が徹底解説します。
- クローズドリムショットとは
- クローズドリムショットを習得するメリット
- クローズドリムショットのやり方
- クローズドリムショットの練習方法
- クローズドリムショットを練習する際のポイント
- クローズドリムショットによくあるミスと対策
- クローズドリムショットの利用場面
クローズドリムショットは、一度覚えればあらゆるジャンルで一生使える、ドラマー必須スキルです。この記事をガイドに、確実な習得を目指しましょう!
クローズドリムショットとは
クローズドリムショットとは、手でスネアドラムのヘッド(打面)をミュートしながら、スティックのショルダー部分やグリップ部分でスネアのリム(縁)を叩く奏法です。
日本では「クローズドリムショット」という名称が一般的ですが、実は日本固有の呼称です。英語圏では主に「クロススティック(Cross Stick)」や「サイドスティック(Side Stick)」と呼ばれます。
「コツッ」という落ち着いた音色を出す
最大の特徴はクローズドリムショットが奏でる音色にあります。「カツッ」「コツッ」といった、短くタイトで、木の温もりを感じさせるパーカッシブな音が鳴ります。通常の「スパーン!」という派手なスネア音ではないですが、クローズドリムショットは音量を抑えつつもリズムの輪郭をはっきりさせたい場面で活躍します。
バラードやボサノヴァ等で使用される
クローズドリムショットが奏でる音は通常ショットに比べてかなり小さいです。音量が控えめなため、バラードのAメロのような静かなセクションでのバックビートとして多用されます。その他、ジャズ、ボサノヴァ、レゲエ、ラテン音楽など、繊細さが求められるジャンルでは欠かせないテクニックです。
楽譜での表記方法
クローズドリムショットを楽譜上で表記する際は、五線譜では、通常のスネアドラムと同じ「第3間」に表記されます。通常のスネアが「●」で表されるのに対し、クローズドリムショットは「×」印で表記されることが一般的です。
譜面によっては「▲」などで表記されることもあります。ドラムの譜面全般に言えることですが、これといった明確なルールはないため、自分の耳で聴いて判断しましょう。
クローズドリムショットを習得するメリット
「自分はロックな爆音ドラマーを目指しているからクローズドリムショットなんて必要ない!」と思う方もいるかもしれません。確かに自分のスタイルを貫くこともかっこいいです。しかし、クローズドリムショットを習得することで、「音の大きさ」を長所とするドラマーにも、大きなメリットがあります。
音色のバリエーションが増える
通常のスネアショットや音色が派手なオープンリムショットを駆使するだけでも、スネアドラムの1つで音色のバリエーションが出せます。この2種類に加えて、静かな音を出すクローズドリムショットが加われば、より表現の幅が身に付きます。小さな音を出す奏法を身に着けられれば、それだけ強弱の表現幅が大きいということ。大きな音を武器にしているドラマーにとっても、クローズドリムショットを使用することで、いざ大きい音を出す時の迫力が増して聞こえるのです。
対応できるジャンルが広がる
バラードのAメロでしっとりとした雰囲気を作ったり、ボサノヴァやラテンのリズムを刻んだりと、演奏できる曲の幅が格段に広がります。特に、ボサノヴァやラテン等、特定のジャンルでは「できて当たり前」の必須テクニックです。クローズドリムショットをマスターし、多彩なジャンルに対応できれば、バンドやセッションでも重宝されるドラマーになれるでしょう。
クローズドリムショットのやり方
通常のスネアショットとは叩き方が全く異なります。美しい音色を奏でるためにも、仕組みを正しく理解しましょう。
スティックの持ち方と手の配置
1. 人差し指と親指でスティックをつまむ
まずは、親指の腹と人差し指の腹でスティックつまみます。「OKサイン」を作るイメージです。残りの中指、薬指、小指はスティックには触れません。
2. 手をスネアドラムのヘッド上に置く
スティックをつまんだら、スティックを持ったまま、手のひらの付け根から小指の側面あたりを、スネアヘッドの中央付近に置きます。この手のひらの付け根から小指の側面あたりが、クローズドリムショットの支点になります。演奏中にこの支点がヘッドから浮かないようにしましょう。
スティックに触れていない中指、薬指、小指もスネアヘッドの上に置きましょう。3つの指がヘッドに触れていることで、ミュートの役割を果たし、クローズドリムショットの音がより綺麗に聞こえる効果があります。
スティックの向きを決める
クローズドリムショットを使う際に、スティックの向きを通常の持ち方にするのか、それとも逆さに持つのか、どちらにするのか決める必要があります。どちらも習得して、場面場面に応じて適切なスティックの向きを決められるようにしましょう。
通常のショットと同じ向き(スティックのグリップエンド側を持つ)
通常ショットと同じような位置でスティックをつまみ、スティックのショルダー部分でクローズドリムショットをする方法です。
メリット
通常ショットからの持ち替えに時間が掛からないため、素早い切り替えが求められる場面で有効です。曲中にクローズドリムショットを一部分だけ使うということも多く、使用頻度も高いです。
デメリット
グリップエンド側でクローズドリムショットをする場合と比べて、音量が控えめになります。なぜなら、スティックのショルダー部分がグリップエンド側よりも細いからです。
通常グリップとは逆向きにスティックを持つ(スティックのショルダー部分を持つ)
スティックのショルダー部分を親指と人差し指でつまみ、グリップエンド側でリムを叩く方法です。通常のスティックの握り方とは異なるため、最初は違和感を感じるかもしれません。しかし、クローズドリムショットは本来、グリップエンド側を使ってリムショットを叩くことが基本となっています。
メリット
スティックの中でも一番太い部分を使用してショットするため、輪郭のしっかりした太い音が出やすくなります。
デメリット
素早い持ち替えが出来ないため、素早い切り替えが求められる時には使用できません。1曲全部クローズドリムショットを使う等、持ち替えの手間がない時や、クローズドリムショットを使う前後に間が空いているとき等に使用が限定されます。また、リムで叩いたグリップエンド部分が削れたりへこんだりすることがあります。
まとめた表は以下になります。
| 持ち方 | 通常グリップと同じ | 通常グリップとは逆向き |
|---|---|---|
| メリット | 素早い切り替えが可能で、使用頻度が高い。 | 基本的な叩き方。輪郭のある太い音が出やすい。 |
| デメリット | 音量が控えめになる。 | 素早い切り替えが出来ない。スティックの消耗がある。 |
手首を動かしてスティックでリムを叩く
1.スティックのポジションを決める
スティックをつまみ、手のひらと中指、薬指、小指をスネアのヘッドに置き、ポジションを作ります。その際、スティックがリムに当たったときに最も良い音が鳴るポイントを探し、そのポイントが正確にリムに当たるよう、手の位置やスティックの角度を微調整します。
2.手首を利用してスティックを持ち上げる
親指と人差し指でつまんだスティックを、手のひらから小指の側面あたりを支点として、ドアノブをひねるのとは逆側に手首を回旋させて持ち上げます。この時、手のひらから小指の側面あたりとスネアのヘッドが離れないようにしましょう。手とスネアヘッドが離れてしまうと、スティックを振り下ろす際の打点がぶれてしまうからです。
3.スティックを振り下ろしてリムにスティックを当てる
リラックスした状態で、ドアノブをひねるように手首のスナップでスティックを自然に振り下ろし、リムを叩きます。強く叩きつけると、かえって音がミュートされてしまいます。あくまで自然と振り下ろすようにスティックを当てる事が大切です。
良い音が鳴るポイント(スイートスポット)を探す
クローズドリムショットの音色は、スティックをリムに当てる位置によって劇的に変わります。スティックの種類などによって変わりますが、スティックのグリップエンドから約1/4の位置をリムに当てるのが目安です。
リムにスティックを当てる位置をずらしながら叩いてみて、「カツッ」「コツッ」とよく響く場所を探しましょう。良い音が鳴る位置が分かったら、最初は良い音が鳴る位置にマーカー等で目印をつけておくと良いでしょう。何度も練習して、クローズドリムショットを使う際に必ず良い音が出るポイントで叩けるように、フォームを固めていきましょう。
クローズドリムショットの練習方法
良い音がするポイントを身体で覚える
まずはメトロノームを使わなくても構いません。一発ずつクローズドリムショットを行い、「良い音が出るポイント」と「正しいフォーム」を体に覚え込ませることに集中します。スティックのどのポイントで叩いたら良いか、手の指でしっかりミュート出来ているかを確認します。
8ビートなど、実際のビートに組み込んで使う
クローズドリムショット単体で良い音が出せるようになってきたら、実際のビートに組み込みます。まずはシンプルな8ビートで構いません。右手はハイハット、右足はバスドラムを叩きながら、2拍目・4拍目でクローズドリムショットを使い、ビートの中でクローズドリムショットを綺麗な音で出せるように繰り返し練習します。
通常ショットとクローズドリムショットの切り替えを行う
ビートの中でもクローズドリムショットの音が安定してきたら、通常ショットとの切り替えを練習しましょう。この時、スティックの向きは通常グリップで、ショルダー部分でクローズドリムショットを行うやり方で構いません。まずはシンプルな8ビートを4小節、左手は通常ショットでスネアを鳴らします。4小節叩き終わったら、素早くスティックを持ち替えて、クローズドリムショットを用いてスネアを鳴らしましょう。切り替えのタイミングで音が安定するように意識しながら練習していくことで、ブレのない演奏が可能になります。
クローズドリムショットを練習する際のポイント
スティックを持つ手の指を確実にヘッドに付ける
演奏中、手のひらだけでなく、スティックを持っていない中指・薬指・小指もヘッドに軽く触れさせておくことを意識してください。中指・薬指・小指もヘッドに触れて置くことで、スネアのヘッドがミュートされ、余計な倍音がカットされます。余計な音が出なくなることで、クローズドリムショットでリムを叩いた際の「カツッ」という音がより際立ちます。
腕をリラックスさせて叩く
クローズドリムショットに限りませんが、手首をリラックスさせて演奏することを心がけましょう。腕に力が入ったままクローズドリムショットを行うと、音色も濁ってしまいますし、最悪の場合、怪我にも繋がります。綺麗な音色を奏でるためにも、なるべく力を抜いてスティックをリムへ落とす感覚で演奏しましょう。
よくあるミスと対策
Q. 音色が安定しない
原因:スティックを上げる時に手のひらが浮いてしまっている。
スティックを上げる際、支点となる手のひらから小指の側面あたりが浮いてしまい、当たる位置が毎回ずれている可能性があります。結果としてスティックの当たる位置が毎回ずれることで、音色が安定しなくなります。
対策:手のひらかをスネアヘッドに付け、リラックスしてスティックを持ち上げる
まずは手のひらから小指の側面までをヘッドに付けるイメージを持ちましょう。そしてスティックを引き上げる際に支点部分が離れないように注意しましょう。支点部分が離れてしまうのは力みがある証拠でもあります。リラックスしてスティックを持ち上げましょう。
Q. 通常ショットとの切り替えが間に合わない
原因:切り替えの直前になってから慌てて準備している。
通常ショットを行っているパートに集中するあまり、次の展開でクローズドリムショットを使うことが意識出来ていないことが原因です。慌ててクローズドリムショットに切り替えても十分な準備が出来ていないため、、綺麗な音を出すことが難しくなります。
対策:次の展開を先読みして準備をする。
クローズドリムショットに限った話ではありませんが、「次の展開」を先読みすることが重要です。例えばAメロの最後の小節に入った時点で、「次はBメロだからクローズドリムショットを使うな」と頭の中で準備を始めれば、身体は自然とスムーズに動きます。
Q. 腕が疲れてしまう
原因:上腕や前腕部分に余計な力が入っている。
クローズドリムショットは普段のショットとはフォームが違うため、上腕や前腕に不必要に力が入りがちです。余計な力が入るとフォームも安定せず、綺麗な音が出しづらくなってしまいます。
対策:腕のどこに力が入っているかを意識しながら練習する。
腕をリラックスさせることを意識しながら練習を続けましょう。だんだんと腕のどこに力が入っているか、自分で分かってくるはずです。力が入ってくる部分が分かれば、その部分をリラックスさせるように継続して練習することで、だんだんと力が抜けてきます。
リラックスしてクローズドリムショットを行っているとはいえ、バラードなどで何分間もクローズドリムショットを続ける場合、ある程度疲れてくるのは仕方がありません。リラックスしたフォームを維持しつつ、持続力を養う練習も継続しましょう。
クローズドリムショットの主な利用場面
クローズドリムショットは主に、バラードのAメロ等、静かな場面でのバックビートで使われることが多いです。また、ボサノヴァ等の特定ジャンルではクローズドリムショットがリズムの骨格を成す重要な役割を担います。しかし、クローズドリムショットが使われる場面はこの限りではありません。様々な音楽を聞いて、どのように使われているか自分の耳で確かめることが大切です。たくさんの音楽を聞いて、自分だけの活用法を見つけましょう。
まとめ
クローズドリムショットは決して派手なテクニックではありません。しかし、これをマスターすることで「楽曲の雰囲気をコントロールする」という、ドラマーとして一段上の表現が可能になります。
ぜひ今回紹介した練習法を実践し、クローズドリムショットを百発百中で良い音が出るようになりましょう。クローズドリムショットを習得することで、あなたのドラムライフが、より豊かで表現力に満ちたものになることを願っています!


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