- 「バスドラムの踏み方って、これで合っているのかな…」
- 「もっと大きい音が出したいのに、なぜか音量が出ない…」
ドラムを始めたばかりの頃、誰もが一度はこんな疑問を持つのではないでしょうか。特にバスドラムは他の太鼓と違い、足でペダルを踏んで音を鳴らす楽器です。ペダルをどのように踏んだらいいのか分からないまま、自己流で演奏してきた人もいるのではないでしょうか。自己流で練習を続けることも可能ですが、間違ったフォームが癖になってしまうと、上達の妨げになりかねません。
私自身、ドラム講師として多くの初心者ドラマーを指導してきました。その中でもバスドラムの踏み方に戸惑う生徒はとても多いです。
バスドラムの踏み方についての悩みを解消すべく、この記事では、バスドラムの基本的な奏法である「ヒールアップ奏法」と「ヒールダウン奏法」について、徹底的に解説します。
- ヒールアップ奏法・ヒールダウン奏法の概要
- ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法の違い
- ヒールアップ奏法とヒールアップ奏法のどちらを先に習得すべきか
- ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法を習得するメリット
- ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法の練習する際のポイント
ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法について理解し、正しい奏法で練習することで、今後のドラム生活がより良くなることでしょう。ぜひ最後までお付き合いください。
ヒールアップ奏法とは
ヒールアップ奏法とは、演奏時にかかとをペダルから浮かせて足全体を持ち上げ、その後、力を抜いて足を踏み下ろすバスドラムの奏法です。足の指の付け根あたりはペダルにつけたままリラックスし、股関節や膝、足首の動きの連動を使って足全体の重さをペダルに乗せて踏み込みます。
かかと(ヒール)を上げて(アップ)演奏することから、ヒールアップ奏法と呼ばれます。
足全体の重さをペダルに乗せる奏法のため、バスドラムらしい非常に大きな音で演奏することが可能です。そのため、ロック、ポップス、メタルなど、現代の多くの音楽ジャンルで求められる、非常にポピュラーな奏法と言えます。
端的に言えば足を上げて下ろすだけの奏法ですので、初心者でも簡単に再現でき、かつ大きな音量を出すことができます。
ヒールダウン奏法とは
ヒールダウン奏法は、ヒールアップとは対照的に、かかとをペダルにつけたままペダルを操作してバスドラムを演奏する奏法です。かかとをペダルの後方にしっかりとつけたまま、ペダルのボードを足の裏で軽く小突くような感覚で操作します。
かかと(ヒール)を下ろした(ダウン)まま演奏するので、ヒールダウン奏法と呼ばれます。
小突くような感覚で踏むことが基本になるため、繊細な音量での演奏と、音量のコントロールに優れています。ジャズ等、バスドラムが余り主張しない音楽で使用する場面が一般的です。
ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法の違い
ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法は、単にかかとを「上げるか」「下げるか」だけの違いではありません。使う筋肉、力の伝え方、そして得意とする音楽表現が全く異なります。どちらが優れているというわけではなく、それぞれの個性と役割を深く理解することが、あなたのフットワークの表現力を格段に引き上げてくれます。ここでは、「音量」「コントロール」という2つの観点から、その違いを詳しく見ていきましょう。
音量面
ヒールアップ奏法は、股関節や膝も使い、足全体の重さをペダルに乗せるようにして踏み込みます。そのため、非常にパワフルでアタックの強い、大きな音を出すのが得意です。ギターやベースが鳴り響くバンドサウンドの中でも埋もれることのない、ロックなキックサウンドを生み出すには最適な奏法と言えます。
一方、ヒールダウン奏法は、足先を使用した、より繊細な動きが主体です。繊細な動きが中心になるため、小さい音で音量を細かくコントロールすることに長けています。特にジャズなどで聴かれる、バスドラムをかすかに鳴らし続ける「フェザリング」のような表現は、ヒールダウン奏法が適しています。
もちろん、訓練を積めばヒールダウンでも力強い音を出すことは可能です。しかし、ヒールダウン奏法の本質はパワーよりも緻密なコントロールにあります。
コントロール面
ヒールダウン奏法は、常にかかとがペダルに接地しているため、身体の軸が非常に安定します。かかとを支点に足先で操作するため、まるで手の指を扱うような繊細な感覚で演奏が可能です。慣れるまで時間はかかりますが、音量やタイミングの繊細なコントロールを可能にします。
一方、ヒールアップ奏法は、足全体で操作するため、ヒールダウン奏法よりも安定した音量で力強く踏む事を得意としています。
ヒールアップ奏法は安定したパワフルな演奏の半面、どうしても大味な演奏となりがちです。しかし、訓練次第では足全体でしなやかな演奏が可能になり、繊細さとパワフルさが両立した、強弱表現が非常に多彩な表現力豊かな演奏が実現できます。
それぞれの奏法についてまとめた表が以下になります。
項目 | ヒールアップ奏法 | ヒールダウン奏法 |
---|---|---|
音量面 | 大音量を出しやすい。足全体の重さを使うためパワフル。 | 小さな音のコントロールが得意。大音量を出すには訓練が必要。 |
コントロール面 | パワー重視だが、習熟すれば弱音のコントロールも可能。 | 足首で操作するため、細かなニュアンスや弱音の表現力に優れる。 |
このように、両者は得意な領域が全く異なります。どちらか一方を極めるだけでなく、両方の特性を理解し、曲やフレーズに応じて自然に使い分けることこそが、理想のドラマーへの道なのです
まずはヒールアップ奏法を習得しよう
「ヒールアップ奏法とヒールダウン奏法の2つがあるのは分かったけれど、どちらから練習すればいいの?」と悩む方も多いでしょう。私のレッスンでは、まずヒールアップ奏法から習得することをおすすめしています。その理由は2つあります。
ほとんどの場面でヒールアップ奏法が使われるため
世間で演奏されているロックやポップスの曲のほとんどは、ヒールアップ奏法で演奏されています。バスドラムはバンド演奏の土台でもあり、バンドの中で他の楽器に埋もれない、迫力のあるバスドラムを鳴らすためには、ヒールアップ奏法が不可欠だからです。
初心者がヒールダウン奏法に慣れるには長い時間が必要
ヒールダウン奏法に慣れるまでは足首が固まりやすく、スネに痛みを感じることが非常に多いです。ビーターのリバウンドを感じて、最小限の力で演奏できるようになるには相当な時間がかかります。その一方、ヒールアップ奏法は足全体の上下運動で音を出すため、初心者でも動かしやすく、バスドラムらしいパワフルな音量での演奏が可能です。痛みを感じることもあまりないので、初心者の方でも継続的に練習をすることも可能。痛みなどでいきなりバスドラムの踏み方に悩むことも少なくなるため、ヒールアップ奏法を最初に習得することを推奨しています。
ヒールアップ奏法の基本的な踏み方
ヒールアップ奏法をまずは習得するために、実際にどのように足を動かせば良いのかを解説します。ただ足を上下させれば良いのではと思うかもしれませんが、力任せに踏むだけでは良い音が出ません。細かく動きを見てみましょう。
1. 足を持ち上げる
まず、かかとをペダルから少し浮かせます。この時、足首や膝からではなく、足の付け根にある「股関節」から動かすことを意識しましょう。この時に足首、ふくらはぎ、太ももに余計な力を入れず、見えない糸で足を釣り上げるイメージで足を上げましょう。余計な力が入っていると、足の自然な動きが阻害されてしまいます。リラックスすることを心がけましょう。
2. 足を落とす
持ち上げた足を、重力にまかせて「ストン」とペダルの上に落とします。この落とす感覚がヒールアップ奏法ではとても大切です。「踏み込む」という意識が強いと、筋肉に余計な力が入り、音が硬くなったり、すぐに疲れたりしてしまいます。あくまで自然落下させるイメージを持ってください。
ヒールアップ奏法を練習する際のポイント
ペダルを踏み込むのではなく、足を落とす感覚で踏む
「踏む」という動作上、「踏みつける」ようなイメージがどうしてもあります。そのため、力いっぱい足を踏み込むような動作になりがちです。しかし、「踏み込む」という意識が強いと音も硬く、足に疲れも感じやすくなってしまいます。バスドラムを綺麗に鳴らすためにも、重力に従い、ストンと足全体を落とす感覚でペダルを踏みましょう。音の違いにきっと驚くはずです。
ペダルボードと足がなるべく離れないように
足を持ち上げる際、足裏がペダルから完全に離れてしまうと、ペダルと足との間に不必要な遊びが出来てしまいます。ペダルと足が離れていることにより、足の動きが正しく反映されず、安定したプレイが出来なくなる可能性が生じるのです。足を上げた時にペダルと足が離れてしまうのは、足首が固まった状態で足を上げている証拠でもありますので、リラックスした状態で足を上げることを意識しましょう。
叩かない時はかかとを下ろして休む
演奏中、バスドラムを踏む必要が無いときは、かかとをペダルに下ろして休みましょう。常にかかとを上げていると、無駄な体力を消耗してしまいますし、太ももも疲れてしまい、いざという時に安定した演奏が出来ません。オンとオフをしっかり切り替えましょう。
ヒールダウン奏法を習得するメリット
ヒールアップ奏法を先に習得すべきと伝えてきましたが、ヒールダウン奏法が不要という意味ではありません。むしろ、ヒールダウン奏法の練習はあなたのフットワークを別次元へと引き上げてくれます。
足首の感覚を養う
ヒールダウン奏法は、ヒールアップ奏法とは違い、足先のみを使用し、リバウンドを利用して叩く奏法です。足先だけを使う制限があることで、足全体を使うヒールアップ奏法で意識が薄れがちな足首の脱力の意識を養うのに最適な練習となります。
音量やタイミングをコントロールする練習になる
ヒールダウン奏法は繊細なコントロールが肝の奏法です。ボリュームやタイミングのコントロールをヒールダウン奏法で習得することにより、ヒールアップ奏法よりも高度なコントロールが可能になります。結果的に、より繊細にペダルをコントロールする能力が身に付き、表現の幅が広がることに繋がります。
ヒールアップ奏法を演奏する時に、ヒールダウン奏法で練習したことが役立つ
ヒールダウンで養われた足首の脱力の感覚や、繊細なボリューム・タイミングのコントロールは、ヒールアップ奏法に応用した際に真価を発揮します。パワフルな演奏をする時は、足全体を使用するパワーに、さらに足首のスナップが加わることで、よりキレがあるサウンドへ。反対に繊細なコントロールを求められた時も、ヒールダウン奏法で培ったコントロール力がヒールアップ奏法でも役立ちます。ヒールアップ奏法、ヒールダウン奏法とそれぞれ切り離すのではなく、相互で作用してバスドラムの演奏技術が高まることを意識して練習に取り組みましょう。
ヒールダウン奏法の基本的な踏み方
1. かかとを下ろしたまま、足の先端でボードを押す
まず、かかとをペダルの後ろ側にしっかりとつけます。そこを支点にして、足の裏でペダルを小突くように、ペダルのボードを押し下げます。
2. 足首の力を抜いてビーターを戻す
踏み込んだ後、すぐに足首の力を抜きます。すると、ペダルのスプリングの力で自然にビーターとフットボードが戻ってきます。このリバウンド(ビーターの跳ね返り)を足裏で感じることが非常に重要です。バスケットボールのドリブルのように、返ってくる力を利用することで、連続して踏むことが可能になります。
ヒールダウン奏法を練習する際のポイント
足首の動きに集中する
ヒールダウン奏法は足首の脱力が肝になります。ヒールダウン奏法を練習していると、最初はスネの筋肉が痛くなり、演奏することも困難になるでしょう。スネの筋肉が痛くなるのは、足首に力が入ったまま、ボードを押し付けている証拠です。まずは無理のない範囲で継続し、脱力の感覚を身に着けていきましょう。ヒールダウン奏法を身に着けるには長い時間がかかりますが、足首の脱力の感覚を理解し、リバウンドを自然と使用できるようになれば、劇的にフットワークのレベルが上がります。ぜひあきらめずにトライしてみましょう。
まとめ
今回は、バスドラムの基本となる2つの奏法、「ヒールアップ」と「ヒールダウン」について解説しました。
- ヒールアップ奏法は、最も基本的で、パワフルなバスドラムのサウンドの要。
- ヒールダウン奏法は、繊細なコントロールと、フットワーク全体の質を高めるための鍵。
まずはヒールアップ奏法で力強いサウンドを手に入れ、バンドで演奏する楽しさを存分に味わってください。そして、さらなる表現力を求めてヒールダウン奏法の練習にも取り組んでみましょう。
この2つの奏法は対立するものではなく、互いに補い合い、あなたのドラミングをより高いレベルへと導いてくれる車の両輪のような存在です。両方を自在に使いこなせるようになった時、あなたのバスドラムのサウンドは劇的に向上します。
この記事が、あなたのドラマー人生にとって、有益な一歩となることを心から願っています。さあ、ペダルに向かって、今日から新しい一歩を踏み出しましょう!
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