- 「いつも同じようなフィルインになっちゃうんだよな…」
- 「もっとカッコいいフレーズでみんなを驚かせたい!」
ドラムをしばらく続けていると、そんな悩みを感じること、ありませんか?もっと多彩な表現がしたいのに、なかなか引き出しが増えなかったり、ドラムプレイに躍動感が少ないと感じたりすることもあるでしょう。
実は、こういった悩みを抱えているドラマーは非常に多いのです。私自身も講師をする上でそのような悩みを持っている生徒をたくさん見てきました。何よりも私自身が一番悩んでいたことでもあります。
しかし、安心してください。あなたのドラミングを格段にレベルアップさせ、表現の幅を劇的に広げる効果的な練習方法があります。それが「アクセント移動」です。
私自身も長年ドラムを演奏し、多くのドラマーにレッスンを提供する中で、この「アクセント移動」の練習がいかに強力な武器になるかを目の当たりにしてきました。基礎的なテクニックでありながら、その効果は絶大です。私自身も日々使用するフィルインに頻繁に使います。
この記事では、「アクセント移動」の練習方法や練習するメリット、練習するポイントや応用まで、初心者にも分かりやすく解説します。この記事を読めば、あなたはフィルインのバリエーションに困ることがなくなり、ドラムプレイも格段に華やかになります。
アクセント移動をマスターし、ドラムプレイの新しい扉を開きましょう!
アクセント移動とは
アクセント移動とは、文字通り、一定の音符の連打の中で、アクセント(強く叩く音)の位置を意図的にずらしていく練習方法です。例えば、16分音符を「右左右左…」とシングルストロークで叩く際に、通常は各拍の頭(1打目)に自然とアクセントが来ることが多いですが、これを2打目、3打目、4打目…と意識的に移動させていくのです。
この練習は、ただ機械的にアクセントをずらすだけではありません。どの音符であっても、自分が狙ったタイミングで的確に音を強調することが必要です。同時に、アクセントだけで無く、アクセント以外の音符もコントロールすることが大切になります。アクセント移動はまさに、高度なスティックコントロールとダイナミクス(強弱)の表現力を養うことが出来る練習となります。
歴史的に見ても、アクセント移動の考え方は古くから打楽器教育に取り入れられてきました。ドラムの基礎技術であるルーディメンツの練習においても、強弱を意識したアクセント練習は非常に重視されています。まさに、時代を超えて受け継がれる普遍的な練習法と言えるでしょう。
アクセント移動を練習するメリット
アクセント移動を練習することで、以下の4つメリットがあります。
ダイナミクス(強弱)コントロールの飛躍的向上
アクセントを意識することで、強く叩く音とそれ以外の音の差を叩き分ける技術が身につきます。アクセント移動を練習し、実際の演奏に盛り込むことで、演奏に抑揚が生まれ、聴いている人を惹きつける表現力が身につきます。
左右の音のバランス改善
アクセント移動は左右の手どちらでもアクセントが付けられるための練習メニューです。利き手で無い方の手でアクセントを付けるのは難しいですが、練習を続けるうちにコントロール力が身に付きます。結果として利き手と利き手でない手の音量差やコントロールのばらつきが是正され、安定したストロークが身につきます。
スティックコントロール力の向上
アクセントとノンアクセントをスムーズに切り替えるには、細かいスティックコントロールが不可欠です。最初はノンアクセントの音が大きくなりすぎてしまい、アクセントとの判別が付かなかったり、アクセントを上手くつけられずに平坦な演奏になったりするでしょう。しかし、継続して練習することでスティックコントロールが向上し、アクセントを用いたフレーズ以外でも上達を感じられるでしょう。
フィルインやフレーズの引き出しが爆発的に増える
同じ手順のフレーズでも、アクセントの位置を変えるだけで全く異なるニュアンスのフィルインが生まれます。「手癖のフレーズに飽きた…」という悩みも、アクセント移動のアイデアを取り入れるだけで一気に解消され、フレーズを作る際の選択肢が格段に増えます。
このように、アクセント移動の練習は、ドラマーにとってまさに「いいこと尽くし」なのです。地道な練習ではありますが、その効果は絶大。ぜひ、日々の練習に取り入れてみてください。
4つのストロークを使い分けよう
実際の練習に入る前に、アクセント移動の練習には必須である4つのストロークを理解しましょう。
4つのストロークは以下の種類があります。
- フルストローク
- アップストローク
- ダウンストローク
- タップストローク
これら4つのストロークを習得することが、アクセント移動を練習する際には不可欠です。最初は思うようにコントロールできないかもしれません。しかし、ゆっくりから確実に練習を行うことで、スムーズなストロークの切り替えが行えるようになります。結果としてアクセント移動の練習だけでなく、ドラムプレイ全体に良い影響を及ぼします。
フルストローク (Full Stroke)
スティックを高く振り上げ、強く叩いた後、再び高い位置へ戻すストロークです。連続して力強い音を出す時に使います。
アップストローク (Up Stroke)
まず、スティックを低い位置から落とし、小さな音を出し、その後、スティックを振り上げて高い位置へ移動させます。小さい音の次に大きな音を出す際には必須のストロークで、スムーズな音量変化を生み出します。
ダウンストローク (Down Stroke)
高い位置から振り下ろし、大きな音を出しつつ、打った後はスティックを低い位置で止めます。大きな音を出した後に小さな音を出す際に必須のストロークです。
タップストローク (Tap Stroke)
低い位置から小さな音を出し、打った後も低い位置を保ちます。小さい音を連続して叩く時に使用し、繊細なコントロールが必要です。
以下、4つのストロークのスティック位置、出音の大きさをまとめた表となります。
ストローク名 | 最初の スティック位置 | 最後の スティック位置 | 出音の大きさ | 次の出音の大きさ |
---|---|---|---|---|
フルストローク | 高 | 高 | 大 | 大 |
アップストローク | 低 | 高 | 小 | 大 |
ダウンストローク | 高 | 低 | 大 | 小 |
タップストローク | 低 | 低 | 小 | 小 |
4つのストロークが持つ「音量」と「次の音への準備」という役割を意識して練習することで、あなたのアクセント移動は格段にレベルアップするでしょう。
アクセント移動の具体的な練習方法
具体的な練習方法を見ていきましょう。16分音符と3連符のアクセント移動の練習です。まずは移動を伴わない、スネアドラムだけでアクセント移動をする練習から始めます。家で練習する際は練習パッド等でも構いません。メトロノームを必ず使い、最初はゆっくりとしたテンポ(BPM=50くらいから)で、一打一打の音量とタイミングに集中して練習しましょう。
16分音符と3連符でのアクセント移動の練習が他の音符にも応用しやすいからです。休符移動の練習を16分音符、3連符で行う理由と同じです。以下の記事を参照願います。
16分音符のアクセント移動
最も基本的な16分音符でのアクセント移動です。手順はオルタネートの順で叩きます。アクセントの音は大きく、それ以外の音はできるだけ小さく叩くのがポイントです。
「オルタネート」は、英語で「交互の」「代わりばんこの」という意味を持つ言葉です。ドラムの演奏においては、その名の通り、右手と左手を「交互に」一打ずつ叩く、最も基本的な手順のことを指します。
アクセントが1つ
1拍の中の16分音符4つのうち、1つだけにアクセントを置きます。最も一般的なアクセント移動の練習とされます。
譜面内のアルファベットはストロークの略称を表しています。
- D=ダウンストローク
- U=アップストローク
- T=タップストローク
- F=フルストローク

- 1打目にアクセント
- 2打目にアクセント
- 3打目にアクセント
- 4打目にアクセント
アップストロークやダウンストロークを意識しながら行いましょう。全てのパターンをスムーズに叩けるようになったら、1小節ごとにアクセント位置をずらしていく練習も効果的です。(例:1打目にアクセントがあるパターンを1小節→2打目にアクセントがあるパターンを1小節→…と繰り返す。)
アクセントが2つ
次に、1拍の中にアクセントを2つ入れてみましょう。

- 1・2打目にアクセント
- 2・3打目にアクセント
- 3・4打目にアクセント
- 1・4打目にアクセント
- 1・3打目にアクセント
- 2・4打目にアクセント
アクセントが2つになることで、1拍の中で左右の手どちらもアクセントが入る事があります。より繊細なコントロールが必要になる練習です。
アクセントが3つ

- 1・2・3打目にアクセント
- 2・3・4打目にアクセント
- 1・3・4打目にアクセント
- 1・2・4打目にアクセント
ついつい小さい音まで大きな音で叩いてしまいがちですが、メリハリを意識して、小さい音を小さく叩くことにも集中して取り組んでみましょう。
3連符のアクセント移動
次に3連符でのアクセント移動です。主に8分音符の3連符(1拍3打)で練習します。
アクセントが1つ
1拍の中の3連符3つのうち、1つだけにアクセントを置きます。

- 1打目にアクセント
- 2打目にアクセント
- 3打目にアクセント
3連符をオルタネートの手順で行うと、表拍の手順が入れ替わるため、両手で均等にアクセントを付ける練習にも最適です。
アクセントが2つ
1拍の中にアクセントを2つ入れてみましょう。

- 1・2打目にアクセント
- 2・3打目にアクセント
- 1・3打目にアクセント
3連符のアクセント移動は、特にシャッフル系のグルーヴや、ブルース、ジャズなどで非常に効果的なフィルインを生み出す素となります。
アクセント移動の練習のポイント
効果的にアクセント移動を習得するためのポイントをいくつかご紹介します。
スティックの高さを意識する:
大きい音の時はスティックを高く振り下ろし、小さい音の時はヘッドの近くから落とす感覚で叩きます。これにより音量の差を視覚的にもコントロールしやすくなります。
練習する際に鏡を用意し、鏡でスティックの高さを確認しながら練習することが効果的です。客観的に自分のストロークの高さを把握することで、より精度の高い練習ができます。
4つのストロークを意識する
フルストローク、アップストローク、タップストローク、ダウンストロークの4つのストロークを駆使することが、アクセント移動の練習では大切です。ポイントは自分が今どのストロークを使用しているのか意識できるテンポで練習すること。最初はとてもゆっくりからになると思いますが、ゆっくりから体得していく経験が将来、アクセントを自在に操れるかどうかの分かれ目となります。
小さい音に意識を向ける。
アクセント移動の練習という名前だけあり、実際に練習する際も、アクセントの音に注意が行くことでしょう。音が大きいものに意識が向かうのは仕方ないですが、ぜひ小さい音のバランスに意識を集中させてください。アクセントといっても、大きい音と小さい音の差分がアクセントの効果を決めます。小さい音があまり小さくなっていなかったり、タイミングがバラバラだったりでは、アクセントの効果も半減してしまいます。ぜひ小さい音にまで意識を払って練習しましょう。
アクセント移動を用いて実際にフレーズを作ってみよう
さて、基本的なアクセント移動の練習に慣れてきたら、いよいよドラムセットで実際のフレーズに応用してみましょう!
まずは普通のスネアの連打にアクセントを加えてみましょう。譜面は以下になります。

実際に叩いてみると、アクセントを付けずに「タカタカ…」と鳴らす時と比べて、アクセントを付けるだけでとても音楽的なフィルインになることが分かるでしょう。
次はアクセントの音をスネア以外の太鼓(タムタム、フロアタム)やシンバルに移動させてみましょう。実際の譜面を見てみましょう

スネアの音色だけでなく、様々な音色が混ざる音楽的なフィルインが出来ました。
ここで挙げたフィルインはほんの一例です。アクセントの音をフロアタムにしたり、クラッシュシンバルにしたり…と、どこにアクセントを置くか、そしてそのアクセントをどの楽器で鳴らすか、という組み合わせは無限大。ぜひあなただけのオリジナルのフィルインを作ってみましょう。
教則本を使ってアクセント移動をさらに実践的な練習にする
アクセント移動の応用の仕方、練習方法はわかったけれども、いざ実戦でどのように使えば良いかわからないという方も多いでしょう。そのような方は教則本をぜひ活用しましょう。
教則本にはアクセントやスティックコントロールに特化したものも販売されており、アクセント移動を用いた様々なフレーズも記載されています。教則本に載ってる譜面を練習することで、どのようなアクセントのパターンがあるのか知ることが出来たり、音楽のアクセントに素早く対応が出来たりとメリットがたくさんあります。今回は代表的な教則本を1つ紹介します。
『Syncopation』(Ted Reed著)
ジャズ系ドラマー御用達の教則本です。ジャズ系ドラマー御用達だからと言って、初心者の方が臆することはありません。誰でも取り組める、長年の歴史ある教則本です。
本の前半の部分はスティックコントロールの基礎となっています。アクセント移動の練習では、後半部分の「Syncopation」の章を用いて練習します。
「Syncopation」の章を用いた練習方法は、載っているリズム譜の音符を「アクセント」と捉え、それ以外の譜面の書かれていない部分を小さい音として演奏します。基本的に譜面は8分音符で書かれており、そのまま練習するのも良いです。応用として、ストレートに8分音符を演奏するだけでなく、8分音符を3連符に読み替えたり、8分音符を16分音符と仮定して練習してみたりすることで、より実践的な練習となります。この練習は、多くのプロドラマーも実践している非常に効果的な練習となります。これにより、音楽的なリズムパターンの中でアクセントコントロールを養うことが可能です。
最初は譜面の読み方に苦戦するかもしれませんが、慣れてくることで読譜力が大幅に向上します。最初のうちは実際に叩く譜面をメモするなどして取り組み、慣れてきたら譜面をそのまま見ながら練習することがオススメです。
「Syncopation」の章の後半部分では様々なアクセントのパターンが記載されています。アクセントの章を8分音符、3連符、16分音符の譜面がしっかりと載っているので、こちらを軸に練習するのも良い練習方法です。
このように、アクセント移動は基礎的な練習でありながら、プロドラマーでも怠ることなく取り組んでいる、非常に重要な練習方法なのです。
まとめ
今回は、かっこいいフィルインのパターンを増やし、ドラミング全体の表現力を向上させるための「アクセント移動」について、その重要性から具体的な練習方法、そして応用までを詳しく解説してきました。
アクセント移動の練習は、一見地味に感じるかもしれません。しかし、この練習を通して得られるダイナミクス・コントロール、スティック・コントロールは、あなたのドラミングを確実に次のレベルへと引き上げてくれます。
フィルインの引き出しが少ないと悩んでいたあなたも、この記事で紹介した練習方法やアイデアを試すことで、きっと新しいフレーズが次々と生まれてくる喜びを感じられるはずです。アクセント移動は練習パッドでも取り組みやすく、家での練習も、目的意識を持って取り組むことで、より効果的で充実したものになるでしょう。
大切なのは、焦らず、ゆっくりと、確実に、そして楽しみながら練習を続けることです。アクセント一つで音楽はこんなにも変わるんだ、という発見を大切にしてください。
この記事が、あなたのドラムライフをより豊かで創造的なものにするための一助となれば、私にとってこれ以上の喜びはありません。さあ、スティックを持って、アクセント移動の魔法を体験してみてください! あなたのドラムは、もっともっとかっこよくなれます!
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